「中小M&A推進計画」とは

「中小M&A推進計画」

2021年4月30日。経済産業省から「中小M&A推進計画を取りまとめた」との発表がありました。

「経営資源集約化等を推進するため今後5年間に実施すべき官民の取組」を「中小M&A推進計画」

として取りまとめたとのことです。 

 

「中小M&A推進計画」にはどのようなことが書かれているのでしょうか。引用抜粋してご紹介します。

1)「中小M&A推進計画」策定の背景・趣旨は

まず「中小M&A推進計画」はどのような背景・趣旨の下に策定されたのでしょうか。

「中小M&A推進計画」策定の背景・趣旨は以下のように説明されています。

 

「中小M&A推進計画」策定の背景

・経営者の高齢化に伴って後継者不在の問題が経営上の課題として強く認識されている。

 事業承継の一つの手段として、M&Aによって第三者による事業承継も円滑に行うため、

 政府は徐々に取り組みを進めてきた。

 

・そのような折り、新型コロナウイルス感染症が発生し、2020年からその影響が拡大する中で、

 廃業件数が増加するなど中小企業の経営状況は極めて厳しい状況にある。

 

感染症の影響を前提とした新たな日常に対応するための事業再構築の重要性が高まっている

 

・こうした状況も踏まえ、経営者の高齢化や感染症の影響に対応し、中小企業の貴重な経営資源が

 散逸することを回避するとともに、事業再構築を含めて生産性の向上等を図る必要がある。

 

・上記認識のもとに「中小企業・小規模事業者の生産性の向上に向け事業統合・再編を促すため、

 予算・税制等を含めた総合的な支援策」を示すこととなった。

 (2020 年 7 月「成長戦略フォローアップ」)

 

・これに従い、「中小M&A」を円滑にかつ安心して実施できる環境を集中的に整備するとともに、

 今後の取組の見通しを提供するべく、今後 5 年間に実施することが求められる官民の取組を

 「中小M&A推進計画」として取りまとめた。

 

「中小M&A推進計画」策定の趣旨

・本計画は、中小企業が培ってきた貴重な経営資源を将来につないでいくことが目的であり、

 中小企業の淘汰を目的とするものではない。

 

・M&Aは事業承継を含め経営戦略実現のための手段の一つにすぎず、中小企業にM&A を強制

 しようとするものではない。あくまでも譲渡側・譲受側の双方が希望する場合に円滑な

 M&Aを後押ししようとするものである。 

 

ここまでを読むと、もともと政府として中小企業M&Aの第三者承継の取り組みを推進していたところ

新型コロナウイルス感染症が発生し、その必要性・緊急性が高まったことがわかります。

 

では、政府は中小企業M&Aの意義をどのように捉えているのでしょうか。

中小企業M&Aの意義としては以下の3点があげられています。

 

意義①:経営資源の散逸の回避

意義②:生産性向上等の実現

意義③:リスクやコストを抑えた創業

 

2)「中小M&A」の意義とは

意義①:経営資源の散逸の回避

・中小企業経営者の高齢化が年々進んでおり、事業承継への関心が高まっている。

 

・こうした中、事業承継の取り組みが活発化しつつあり、後継者不在率は改善傾向にあるものの、

 引き続き事業承継を推し進める必要がある。

 

・後継者不在の中小企業は、仮に黒字経営であったとしても廃業等を選択せざるを得ない。

 近年、廃業件数は増加傾向にあったところ、2020年は感染症の影響もあって過去最多の件数となった。

 

・廃業事業者のうち黒字廃業の比率は約6割である。

 廃業する中小企業の中には貴重な経営資源を有する事業者も少なくないと考えられる。

 

・感染症の影響も踏まえると、経営者の年齢にかかわらず、M&Aによって経営資源の散逸を回避する

 ことの重要性が高まっている。

 

・実際、例えば経営資源のうち従業員については、M&A 実施後に多くのケースで譲渡側の従業員の

 雇用は維持されているとの調査もある。

 

意義②:生産性向上等の実現

・M&Aは、設備投資や研究開発等と並び、中小企業の生産性向上等の重要な手段の一つである。

 具体的には、M&A によって、譲渡側・譲受側ともに、他者の保有する経営資源を活用することで、

 以下などを早期に実現する効果が期待される。

 

 ①規模の拡大によるコア事業の強化・拡大

 ② 垂直統合によるコア事業の強化・拡大

 ③新規ビジネスへの参入

 ④成熟・衰退事業の再編

 ⑤グループ内再編

  

・また、デジタルトランスフォーメーション(DX)を含め、従来の経営スタイルからの発展や、

 従業員の意識改革等の効果も期待される。

 

・M&Aによって経営資源の集約化を行った中小企業は、そうでない企業に比べて生産性等の向上を

 実現しているとの調査もある。

 

・また、感染症の影響により、ウィズコロナ/ポストコロナ社会における「新たな日常」に対応するため、

 事業再構築を考えている中小企業も多い。

 

・年齢が若い経営者ほど、感染症の影響下において、「新たな販路開拓・取引先拡大」や

 「新商品・新サービスを開発」などの新しい取組を行う傾向にあるとの調査もある。

 

意義③:リスクやコストを抑えた創業

 

・後継者不在の中小企業のうち、譲受側が見つからないなど M&Aを実施できない場合には廃業等に

 移行せざるを得ない。こうした場合でも経営資源の一部を引き継いでいくことが重要である。

 

・我が国の開業率は、国際的に相当程度低水準である。また、感染症の影響により、創業計画の

 見直しや延期を余儀なくされた創業準備者も少なくないと考えられる。

 

・こうした中、他者が保有している経営資源を引き継いで行う創業(「経営資源引継ぎ型創業」)

 を促すことは、後継者不在の中小企業にとって経営資源を引き継ぐことにつながる。

 

・創業希望者にとっても創業時におけるリスクやコストを抑える上で有用なケースも少なくない。

 

3)「中小M&A」における課題と対応の方向性

「中小M&A推進計画」では、いくつかの論点で、課題と対応の方向性が示されています。

下表は「中小M&A推進計画」で示された課題と対応の方向性を一覧化したものです。

 

区分 課題 NO 対応の方向性
小規模・超小規模M&A の円滑化 課題①-ⅰ:事業承継・引継ぎ支援センターとM&A支援機関の対応不足 1

取組①:事業承継・引継ぎ支援センターとM&A支援機関の連携強化

(センター間の連携強化を含む)

2 取組②:事業承継・引継ぎ支援センター職員の人員強化、業務標準化
課題①-ⅱ:潜在的な譲受側(創業希望者等)の掘り起こし不足 3 取組①:創業支援事業等との連携
4

取組②:事業承継・引継ぎ補助金における新たな対象類型の創設

(経営資源引継ぎ型創業)

課題②:安心できる取引を確保するための取組の不足 5 取組①:事業承継・引継ぎ支援センターによる士業等専門家の活用支援
6

取組②:事業承継・引継ぎ補助金による支援

(士業等専門家活用費用補助等)

7 取組③:表明保証保険の推進によるリスクの低減
大規模・中規模M&Aの円滑化 課題①:中小企業における M&Aに関する経験・人材の不足 8 取組①:簡易な企業価値評価ツールの提供
9

取組②:事業承継・引継ぎ補助金等による支援

(デューディリジェンス、セカンドオピニオンの推進等)

課題②-ⅰ:M&A前後の取組の不足 10 取組①:よろず支援拠点における経営戦略策定の支援
11

取組②:中小M&AにおけるPMIへの段階的な支援の充実

(中小M&AにおけるPMIに関する指針の策定等)

12

取組③:経営資源集約化に資する税制や事業承継・引継ぎ補助金による支援

(M&A後の設備投資・販路開拓の支援等)

課題②-ⅱ:中小企業向けファンドのすそ野の狭さ 13 取組①:中小企業向けファンドによる支援の取組に関する周知広報
14 取組②:中小企業経営力強化支援ファンド出資事業を通じた中小企業向けファンドのすそ野の拡大
中小M&Aに関する基盤の構築 課題①:事業承継等の準備を後回しにしている中小企業の存在 15 取組①:事業承継ガイドラインの改訂等
16 取組②:取引事業者、業界団体、商工団体、地域金融機関、士業等専門家等からの事業引 継ぎ等に関する早期かつ継続的な、親族等のステークホルダーを含む対話の推進
17 取組③:企業健康診断への発展的な見直し等
課題②:中小M&Aを行う上での制度的課題の存在 18

取組①:所在不明株主の株式の買取り等に要する期間の短縮

(会社法の特例の創設)

19

取組②:M&A手法の選択の幅を狭める制度的課題

(例:許認可等承継)への対応

20 取組③:経営者保証解除に関する制度・事業の周知広報、事業承継支援との連携強化
課題③:中小企業におけるM&A支援機関に対する信頼感醸成の必要性 21 取組①:M&A支援機関に係る登録制度等の創設
22 取組②:M&A仲介等に係る自主規制団体の設立
23 取組③:中小M&Aガイドラインの普及啓発
事業再生・転廃業支援との連携 課題①:事業再生支援との連携強化の余地 24 取組①:事業承継・引継ぎ支援センターと中小企業再生支援協議会の連携強化
25 取組②:事業再生局面における経営資源集約化に資する税制による支援
課題②:転廃業支援との連携強化の余地 26 取組①:事業承継・引継ぎ支援センターにおけるM&A、経営資源引継ぎ支援から、やむを得ず転廃業する場合の相談、専門家の紹介までの切れ目ない支援、士業等専門家等との連携強化
27 取組②:事業承継・引継ぎ補助金による支援(廃業費用補助等)

 

上表から3点抜粋してご紹介します。

① M&A前後の取組の不足

「大規模・中規模M&Aの円滑化」という論点では「M&A前後の取組の不足」が課題として

挙げられています。(上表NO11)

 

「M&A前後の取組の不足」の具体例としては、「M&Aプロセスにおいてやり直したい取組」

として以下などが紹介されています。

 

・シナジー分析

・事業計画の立案/事業価値評価

・PMIの事前検討

・M&A戦略の策定

・事業計画のレビュー

・M&A成立後の経営を任せる人材の検討

 

実行プロセスよりもM&A戦略・事業計画・PMI関連が重要ポイントということがわかります。

 

② 所在不明株主の株式の買取り等に要する期間の短縮(会社法の特例の創設)

 「中小M&Aに関する基盤の構築」という論点では「中小M&Aを行う上での制度的課題の存在」が

課題として挙げられています。

 

そのうちの一つが「所在不明株主の株式の買取り等に要する期間」の問題です。(上表NO18)

 「所在不明株主の株式の買取り等に要する期間」は現行の会社法で5年とされています。

 

例えば、株主名簿に記載はあるが連絡の取れない株主(所在不明株主)がいる場合、その保有株式の

買取り等を行うためには、所在不明株主に対する通知等が5 年以上継続して到達せず、5 年間継続して

剰余金の配当を受領しないことが要件になっています。

 

これでは、円滑にM&Aを行うことが困難であることから、特例を創設する内容の改正法案を第 204 回

国会に提出したとのことです。

 

特例では「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」において、経済産業大臣の認定を

受けた場合に限り「5 年」という期間を「1 年」に短縮することが可能になるようです。

 

③ M&A支援機関に対する信頼感醸成

「M&A支援機関に対する信頼感醸成」に関しては「中小M&Aガイドライン」で求めている

主な取り組みの実施状況を以下のように紹介しています。(上表NO23)

 

「譲渡側・譲受側の両当事者と仲介契約を締結する仲介者であるということを、両当事者に

 伝えていますか。」

→「必ず行っている」98%

 

「専任条項を設ける場合でも、他の支援機関に対してセカンド・オピニオンを求めることを

 許容していますか。」

→「必ず行っている」47%

 

「テール期間は最大でどの程度ですか。」

→「6か月超1年以内」68%、「2年超3年以内」14%

 

5)「中小M&A」のフロー

参考までに「中小M&A推進計画」で示されている「中小M&A」のフローを下表の通りご紹介します。

NO フロー 留意点
1 相談 将来のビジョンやM&Aの希望条件の整理、株式の集約などのM&Aに先立つ「見える化」が重要。
2 意思決定  -
3 企業価値評価 譲渡側経営者との面談や現地調査等に基づいて、企業の価値を評価。当事者間で合意した金額が譲渡金額になる。
4 マッチング 候補者をリスト化した上で選定。
5 交渉 譲歩できない点などを予め固めておくことが望ましい。
6 基本合意の締結 スキームや経営者その他の役員や従業員の処遇、遵守事項を確認の上、契約書に調印することが重要。
7 財務・法務等調査(DD) 譲受側の意向を踏まえ調査を実施。
8 最終契約の締結 DDで発見された点や留保事項を踏まえて最終契約を締結する。
9 クロージング(決済) 株式等の譲渡対価の支払い、資産の移転に伴う登記手続きの確認。
10 ポストM&A  -

 

「中小M&A推進計画」では、具体的な支援制度として以下などが紹介されています。

 

・事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)

・事業承継・引継ぎ補助金(設備投資等)

・事業再構築補助金

・経営資源集約化税制(準備金)

・経営資源集約化税制(設備投資)

・経営資源集約化税制(雇用確保)

 

事業承継補助金で「事業再編」が類型の一つとされているのはなぜかなど

国の施策の背景となる考え方を知っているとより理解しやすくなるでしょう。