2024年2月16日、政府は産業競争力強化法の一部改正案を閣議決定しました。
その改正案で「中堅企業」が新たに定義されました。
中小企業と中堅企業はどのように違うのか。なぜ政府は中堅企業を重視するのか。わかりやすく解説します。
1) 中小企業とは?
まず、中小企業の定義は以下の通りです。(中小企業基本法に定められています)
業種分類 | 中小企業基本法の定義 |
製造業・建設業・運輸業等 | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人 |
卸売業 | 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
小売業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人 |
サービス業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
つまり、資本金か従業員数か、どちらかが中小企業の要件に当てはまっていたら「中小企業」と見なすということです。
それと、法人であっても個人事業主であっても、要件を満たせば「中小企業」です。
(なお、個人事業主の場合は資本金がありませんので、個人事業主については、従業員数が要件です)
上表を簡潔にまとめると以下になります。
業種分類 | 資本金の額又は出資の総額 | 常時使用する従業員の数 |
製造業・建設業・運輸業等 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
(なお、上記とは別に「法人税法における中小企業」の定義もあります。法人税法上の「中小企業」は「資本1億円以下の企業」です。
法人税法上の中小企業では、軽減税率が適用されます)
2) 中堅企業とは?
では、中堅企業の定義は何でしょうか。
「中堅企業」とは、常時使用する従業員の数が2,000人以下の会社等です。(中小企業者を除く)
全国に約9,000社あるとされています。
2024年2月16日、政府は産業競争力強化法の一部改正案を閣議決定しました。
「従業員の数が2,000人以下の会社等」という中堅企業の定義は、この改正産業競争力強化法において新たに定義されたものです。
業種分類 | 資本金の額又は出資の総額 | 常時使用する従業員の数 |
大企業 | 従業員数 2,000人超 の会社・個人 ※中小企業者除く | 約1,300社 |
中堅企業 | 従業員数 2,000人以下の会社・個人 ※中小企業者除く | 約9,000社 |
中小企業 | (上表参照) | 約336万社 |
政府は、中堅企業の特性を次の言葉で説明しています。
「中堅企業は、中小企業を卒業した企業であり、規模拡大に伴い
・経営の高度化
・商圏の拡大
・事業の多角化
といったビジネスの発展が見られる段階の企業群」
では、国が「中堅企業」を重視する理由は何でしょうか。
3) 国が「中堅企業」を重視する理由は?
国は、2024年を「中堅企業元年」として
「中堅企業の国内投資を強力に後押しするとともに、経営力の高い中堅企業による中小企業のグループ化を通じた
・収益力向上、
・経営資源の集約、
・労働移動
を進め、産業構造の新陳代謝を加速化する」としています。
中堅企業の国内投資を支援 | → | 経営力の高い中堅企業による中小企業のグループ化 | → | 産業構造の新陳代謝を加速化 |
そして、国が「中堅企業」を重視する理由としては、
・国内経済、国内投資等への貢献
・地域での賃金水準引き上げ
を挙げています。
4) 中堅企業の重要性①:国内経済、国内投資等への貢献
国が中堅企業を重視する理由の一つ目は、国内経済、国内投資等への貢献度合いが高いことです。
具体的には以下のように説明しています。
・中堅企業は、海外拠点の事業を拡大しつつも、国内拠点での事業・投資も着実に拡大し、国内経済の成長に最も大きく貢献。
・他方、大企業は、この10年間で圧倒的に海外拠点での事業を拡大してきた。
今後成長する中堅企業が、国内投資を拡大し続ける成長戦略を描けるかどうかが、日本経済の持続的な成長に決定的に重要。
5) 中堅企業の重要性②:地域での賃金水準引き上げ
国が中堅企業を重視する理由の二つ目は、良質な雇用を提供し、地域の賃金水準の引き上げへの貢献が期待できることです。
具体的には以下のように説明しています。
・日本全体の賃上げを実現するには、従業者数・給与総額の伸び率が大企業を上回り、さらに地方に多く立地し、
良質な雇用の提供者となっている中堅企業の果たす役割が大きい。
・中堅企業は一社あたりの従業者数も中小企業より大きく、成長投資等により規模拡大し賃上げすることは、
取引先や周辺企業への波及も含め、地域の賃金水準の引き上げに貢献することに加え、良質な雇用を生む成長企業への
経営資源の集約化など前向きな新陳代謝の受け皿としての役割も期待される。
つまり国の考え方としては、国内経済の成長と賃金水準引き上げのためには、中堅企業を支援することが効果的だと考えているということです。隈なくすべての企業を支援するのではなく、競争力があり収益性の高い中堅企業にフォーカスを当てて支援することで、国全体の経済成長を実現しようとしているのでしょう。
6) 中堅企業政策 3つの対策の創設
中堅企業支援策としては、以下の3つの施策の創設が計画されています。
①賃上げ原資確保のための省力化等の大規模成長投資支援の創設
・ 補正予算(経済対策)で3年・3,000億円の大規模投資補助
・地域未来投資促進税の「中堅企業枠」創設(税額控除率の引き上げ)
②賃上げ促進税制の中堅企業枠の創設
・中堅企業の賃上げ環境の整備に向けて、賃上げ促進税制に「中堅企業枠」創設
(現行は大企業向けと中小企業向けに二分)
③経営力の高い中堅企業等に経営資源を集約化し賃上げに繋げるグループ化税制の創設
・中堅企業等が事業承継に課題を抱える中小企業を複数回M&A(グループ化)を行う場合に税制面のインセンティブを付与
※なお、中堅企業支援策の詳細については以下をご参照ください。
「成長力が高く地域経済を牽引する中堅企業の成長を促進する政策について」
(2024年3月13日 経済産業省 経済産業大臣政務官 吉田宣弘氏)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/katsuryoku_kojyo/seichou_sokushin_wg/dai7/siryou3.pdf
7) 利益率20%以上の中堅企業は360社以上
なお、2024年4月22日の日本経済新聞によると、利益率20%以上の中堅企業は全国で360社以上あるそうです。
(創業10年未満のスタートアップを除く)
下表は、東京商工リサーチの調査をもとに日本経済新聞がまとめたものです。
企業名 | 本社所在地 | 事業概要 |
ナカニシ | 栃木県 | 歯科用機械器具製造 |
三晃社 | 愛知県 | 広告・販売促進 |
ユカリア | 東京都 | 病院の経営支援 |
情報企画 | 東京都 | 金融機関向けシステム |
アンビックス | 北海道 | ホテル・ゴルフ場経営 |
eBASE | 大阪府 | 小売店向け管理ソフト |