金融検査マニュアル廃止後の融資に係わる検査監督の考え方と進め方とは

金融検査マニュアル廃止後の検査監督

 

2020年9月12日、長野県諏訪市で「SUWAリレバンサミット2020」という金融関係者のイベントがあり、リモートで視聴させていただきました。主催は、諏訪信用金庫さんです。

 

その中で、「金融検査マニュアル廃止後の融資に係わる検査監督の考え方と進め方」というお話がありましたので、ご紹介します。

(1) 金融庁の任務の変化

まず、なぜ「金融検査マニュアル」が廃止されたかというと、金融行政の置かれた状況の変遷の中で、金融庁の任務が変化してきたということがあります。

< 金融行政を巡る主な出来事 >

 

1997年  北海道拓殖銀行や山一証券等の破綻

1998年  金融監督庁発足。日本長期信用銀行や日本債権信用銀行の国有化

1999年 「金融検査マニュアル」公表

2000年  金融庁発足

2001年  特別検査の実施(主要行)

2008年  リーマンショック

2012年  アベノミクス開始

2013年  金融モニタリング基本方針公表

2014年  金融モニタリングレポート公表

 

金融庁が発足した1998年、前年には、北海道拓殖銀行や山一証券等の破綻がありました。

 

発足当時の主な課題

1.金融行政の信頼の回復

2.不良債権問題の解決

3.利用者保護のためにミニマム・スタンダードの徹底

 

そうした課題認識を踏まえての金融庁の任務は、

1. 金融システムの安定

2. 利用者の保護・利用者利便の向上

3. 公正・透明で活力ある市場の確立

 

発足当時の検査・監督の方針

1.ルール重視の事後チェック行政

2.厳格な個別資産査定中心の検査

3.法令遵守確認の徹底

でした。

上記検査・監督方針は、当時の金融庁任務を遂行するにおいて必要なことでした。

上記の方針で取り組んだことで、不良債権問題は収束し、最低限の利用者保護の徹底が図られました。

 

一方で、結果的に副作用としてさまざまな弊害が発生するに至りました。

 

主な副作用は以下の3点です。

1.形式への集中(借り手の事業内容ではなく、担保・保証があるかを必要以上に重視)

2.過去への集中(将来の経営の持続可能性よりも、BS(過去の経営の結果)の健全性に集中)

3.部分への集中(金融機関の経営全体の中で真に重要なリスクを議論するのではなく、個別の資産査定に集中)

このような金融行政の弊害の認識にもとづいて、金融庁では改めて、金融行政の究極的な目標は何かを再考しました。

 

そこで出てきた金融行政の究極的な目標とは

企業・経済の持続的な成長を支え、国民の安定的な資産形成に寄与することを通じて、

 国民の厚生の最大化に貢献すること」。

 

ところが「金融検査マニュアル」が残っている限り、金融機関が「金融検査マニュアル」の呪縛に捉われてしまう。

その弊害を考慮し「金融検査マニュアル」の廃止に踏み切ったとのことです。

 

(2) アメリカの査定と日本の査定の違いは

金融庁では「金融検査マニュアル」廃止後、アメリカのFRPの人に改めて、資産査定について学んだそうです。

そうすると、もともと「金融検査マニュアル」策定のときもアメリカのFRPに学んだつもりが

日本は日本で独自の進化を遂げていて、アメリカのやり方とはかなり違うことに気づいたそうです。

そこで、わかったことは

 

・アメリカの査定では内部格付と引当は必ずしもリンクしていない。

・区分の目標は、与信の質の正確な把握であって、引当の準備作業ではない。

・毀損債権は早くチャージオフ(償却)する。

・非毀損債権のほとんどは一般貸し引きが大部分を占めている。

・一般貸し引きのやり方の最大8割程度は定性要因。つまり経営者の判断。

 

経営判断とは、この金融機関がどういう分野にリスクを取っていて、どういうポートフォリオを作って、

どういう融資をしようとすると、そこに連動して、どういうリスクがありうるのか定性判断をして、

一般貸倒引当金に相当するものを準備する。

 

経営方針と融資の方針とそれに伴って、どういうリスクがあるかという判断と

一般貸倒の引当金を積むことが一体になっている。

 

それに対して、日本では、

・債務者区分して「要注意」より上になると一般貸し引き。

・貸倒実績に基づいて機械的に引き当てを積んでいる。

・毀損債権のやり方を非毀損債権にまで適用している。

・経営判断や融資の方針と引き当てが無関係である。

 

そうしたことがわかって、その違いに驚いたそうです。

 

(3) 金融検査マニュアル廃止後の融資に係わる検査監督の考え方と進め方とは

では、金融機関が創意工夫を行いやすくするには、どうすればいいのか。

 

1.一律の目線ではなく、金融機関の経営理念・戦略の多様性があることを理解し、

  金融機関の個性・特性に着目し、これに即した検査・監督を行う。

2.当局がこのような検査・監督を実践することで

① 早期の顧客の業況の変化を引当に反映させることにより、迅速な支援が可能となる

③ 将来を見据えた幅広い情報に基づき、より的確な金融仲介。引当が可能となる。

 

つまり、金融機関の経営理念・戦略に応じた検査・監督を行う。

 

1.金融機関がどのような経営環境の中で、何を目指しているのか(経営理念)、

  そのためにどのような経営戦略や融資方針、リスクテイク方針を採用しているのか。

  金融機関の固定・特性を理解する。

 

2.その上で、どのように金融仲介機能を発揮しようとしているのか。

  それに伴う健全性上の課題は何かを明らかにする。

 

 引当については、可能であれば、将来を見据えた引当の見積を促す。

 

1.金融検査マニュアルに基づいて定着した現状の引当実務(主に過去実績をもとに査定)は否定しない。

2.マニュアルに記載がなくとも、足元や将来の情報に基づき、より的確な引き当てと早期の支援を

  可能にする。

 

まとめると、金融機関がそれぞれの経営理念・経営戦略・経営方針に則って、融資ポートフォリオを作り、

それがどのくらいのリスクがあるのか認識して、引当を積むということを一貫してできているのか。

その全体を議論できるようにする

 

これが金融検査マニュアル廃止後の融資に係わる検査監督の考え方と進め方とのことでした。