知的資産経営とは、定性要因の可視化を通じて業績向上を図る経営手法です。キャッシュフローコーチングとは、見えにくいお金の流れの可視化を通して、納得の意思決定を視点する手法です。
どちらも見えにくいものの見える化によって、経営者や社員の主体的な意思決定や行動につながる点に共通点があります。同時に一方は定性要因、もう一方は定量要因なので、組み合わせると、親和性と補完性が高いやり方であると感じています。
先日、両者のもう一つの共通点に気づきましたので、ご紹介させていただきます。
1. 知的資産経営とは
本論の前提として、少しだけ知的資産経営のお話をさせてください。
知的資産経営とは、自社の独自の強みを活用することで、業績向上を図る経営の手法です。経済産業省によって、知的資産経営が提唱されたのが2004年のことでした。
知的資産経営が提唱された背景としては、決算書だけでは企業の成長性、将来性が判断できないという問題意識がありました。
A社、B社という決算書上は近い実績の2社があるとします。今は同等の経営状況であったとしても、5年後、10年後にどうなっているかは決算書からはわかりません。
同じような経営を続けているのか。大きく成長しているのか。業績を落としているのか。
決算書の数字がよくないからという理由で、仮に資金調達できないようなことがあれば、将来のその会社の稼ぐ力が発揮されず、地域経済や日本経済にもマイナスです。
その会社の将来の稼ぐ力(将来の現金創出力)を見るには、決算書だけでは測れないその会社独自の強みを知る必要があります。
決算書には現れない、自社の強みを棚卸して全体像を整理し、社内外に説明し、活用していく経営手法が知的資産経営です。
2. 知的資産経営から事業性評価融資、そして企業価値担保権へ
2014年には、金融庁の「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」において、「事業性評価に基づく融資」が重点施策として打ち出されました。
「事業性評価に基づく融資」とは、物的担保や財務データのみに基づいて融資を行うのではなく、企業のビジネスモデルを理解し、成長可能性を評価して融資を行うという考え方です。
金融機関が企業の「事業性」を評価するには、金融機関が企業のビジネスモデルや経営実態、その企業の強みなどの理解が前提となります。
2016年には、経済産業省によってローカルベンチマークが策定されました。ローカルベンチマークとは、企業の経営の状況を知るためのチェックツールです。経営改善に向けての、企業と金融機関などとの対話ツールとしての活用が期待され、策定されたものです。
そして2026年、企業価値担保権という新しい制度がスタートします。これは、企業のビジネスモデルを評価し、企業価値全体を担保にとって融資を行う制度です。いわば事業性評価融資を法制化した制度です。
3. 知的資産経営の第一人者が成果を発揮した理由は?
さて、知的資産経営の第一人者と言われる方がおられます。私は以前、数年間にわたって、師匠の企業支援の現場に同行させていただき、師匠の考え方を学ばせていただきました。
知的資産経営とは、企業の強みのうち特に定性要因にフォーカスする考え方です。数年間学ばせていただき、知的資産経営の考え方は自分自身のベースの考え方となりました。
同時に、定性要因だけでは必要十分とは言えないのではないか。定量要因も同様に重要なのではないかと考えるようになりました。そこで、キャッシュフローコーチングを学び、次第にキャッシュフローコーチングに仕事の領域の重点が移っていきました。
2026年、知的資産経営の師匠の突然の訃報に接しました。師匠から学ばせていただいたこと、一緒に仕事させていただいたことなど、多くの記憶が蘇ってきました。
師匠の追悼会では、多くの方々が師匠の思い出を語られました。お話をお聞きして、特に印象に残ったことは以下の2つのお話でした。
一つ目は、師匠のビジネスパートナーの会社の方によるお話です。知的資産経営の考え方に共感し、師匠の企業支援の現場にも何度も足を運ばれたとのことです。
そして、師匠の柔らかな物腰や、特段に指導しないスタイルに当初「そんな進め方で大丈夫なのか?」と頼りない気がして、不安感を抱かれたとのこと。しかし次第に「そういうスタイルだからこそいいのだ。企業の自信や自発性を引出せるのだ」と気づかれたとのことでした。
二つ目は、師匠が支援された中小企業の経営者や、中小企業家同友会で親交があった中小企業経営者によるお話です。
コンサルタントという職種の人とそれまで接点がなく、最初は身構えていた。しかし、師匠の気取らず、自然体でユーモアある接し方に、心を開くことができ、安心感をもって話ができた。何を言っても否定されず、この人は凄いと思ったなどのお話でした。
4. キャッシュフローコーチが成果を出すために大切にしていることは?
実は、師匠の追悼会と同じ週、たまたま、日本キャッシュフローコーチ協会代表理事による支援者向けセミナーにオブザーブ参加させていただいていました。その場で、日本キャッシュフローコーチ協会代表理事が参加者に問うた質問は、次の質問でした。
「企業支援が成果を発揮するために、自分が一番大事にしていることがあります。何だと思いますか?」との質問でした。
何だと思われますか?少し考えてみてください。
答えは、「安心、安全、ポジティブな場作りをすること」。その場が、安心、安全、ポジティブな場であることが、成果が出る一番の要因であると。
知的資産経営の師匠のスタイルがまさしくそれでした。知的資産経営の師匠は、「安心、安全、ポジティブ」のような言語化はされていませんでしたが、まさしくその理念の体現者でした。
冒頭に書いた通り、知的資産経営、キャッシュフローコーチングには、他にも共通点があります。
見えにくいものを見える化することで、経営者、社員の納得感を引出す手法であること。極めてソリューションフォーカス的な考え方であることなどです。(できている点に目を向けていく)
安心、安全、ポジティブな場であることが成果につながる。今後ともこの考え方を忘れず、大切にしていきたいと考えています。

