2016年7月1日から、中小企業等経営強化法にもとづく「経営力向上計画」の認定が開始されています。「経営力向上計画」については、事業分野別に指針が発表されています。
7月7日時点で発表されている事業分野別指針は、製造業、卸・小売業、外食・中食、旅館業、医療、保育、介護、障害福祉、貨物自動車運送業、船舶、自動車整備の11種類です。このうち、製造業の指針の内容を整理してみました。
1 計画期間 |
3年~5年間とする。 |
2 経営指標 |
イ.労働生産性 ロ.売上高経常利益率 ハ.付加価値額 |
各経営指標の目標値としては、以下が定められています。
経営指標 | 3年間の計画の場合 | 4年間の計画の場合 | 5年間の計画の場合 |
イ.労働生産性 | 3年後までの目標伸び率が1%以上 | 4年後までの目標伸び率が1.5%以上 | 5年後までの目標伸び率が2%以上 |
ロ.売上高経常利益率 | 3年後までの目標伸び率が3%以上 | 4年後までの目標伸び率が 4%以上 | 5年後までの目標伸び率が5%以上 |
ハ.付加価値額 | 3年後までの目標伸び率が1%以上 | 4年後までの目標伸び率が1.5%以上 | 5年後までの目標伸び率が2%以上 |
- 労働生産性=(営業利益+人件費+減価償却費)÷ 労働者数
または
労働生産性=(営業利益+人件費+減価償却費)÷(労働者数×一人当たり年間就業時間) - 経常利益=営業利益ー資金調達に係る営業外の費用(支払利息、新株発行費等)
(有価証券売却益、賃料収入等など、本業と関連性の低い営業外の収益は含まない) - 付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費
- 製品及び製造工程に関する課題
- 標準化、知的財産権等に関する課題
- 営業活動に関する課題
課題認識を受けての経営力向上の内容に関する具体的事項は、下表のとおりです。(企業規模に応じて実施することが求められています)
項目 | 具体的事項 | 目的 | 必要な取り組み事項 | 考慮すべき事項 |
イ 従業員等に関する事項 |
(1)多能工化及び機械の多台持ちの推進
|
製品一単位を製造するために必要な設備費及び人件費の低減
|
多能工化及び機械の多台持ちを目的として、従業員等に必要な教育を行う | 製造ラインの機器や附属センサーからデータを取得し、分析、活用することで稼働状況等を把握 |
(2)継続的な改善提案の奨励 |
製品一単位を製造するために必要な設備費及び人件費の継続的な低減 | 従業員等から製品の製造工程に係る改善提案を受けつける | ||
ロ
製品及び製造工程に関する事項 |
(1)実際原価の把握とこれを踏まえた値付けの実行 | 製品ごとの利益の確実な獲得 | 製品ごとに実際原価を把握し、値付けに反映する | |
(2)製品の設計、開発、製造及び販売の各工程を通じた費用の管理 | 製品ごとの利益を確実に獲得 | 製品ごとに、製造、設計、開発、販売その他の工程における収支計画を作成し、設計及び開発段階での過剰な資本投下、販売工程における過剰な値引等を抑制 | ||
ハ 標準化、知的財産権等に関する事項 |
(1)異なる製品間の部品や原材料等の共通化 | 部品、原材料等の一単位当たりの費用の低減 | 各製品を構成する部品、原材料等の素材、長さ、幅等を精査し、類似の部品については共通化して、部品、原材料等の種類を絞り込みを行う | |
(2)暗黙知の形式知化 | 製品一単位を製造するために必要な費用を低減 | 暗黙知を有する従業員から暗黙知となっている工程設計に関する技能・知見を聴き取り(または自らが文章等に整理)することで、工程設計に関する技能・知見を業務標準として形式知化し、他の従業員に共有する | ||
(3)知的財産権等の保護の強化 | 取引先等との秘密保持契約、特許の活用、自社の強みとなる技術、技能及び知見の性質に応じた防衛策を講じる | |||
ニ 営業活動に関する事項 |
(1)営業活動から得られた顧客の要望等の製品企画、設計、開発等への反映 | 製品の販売価格の向上及び販売量の増加 | 新たな製品の開発や既存の製品の改良に当たっては、自社の強みとなる技術を基礎として、営業活動から得られた顧客の要望、販売後の製品の使用状況に関するデータその他の情報を踏まえ、顧客にとってより付加価値の高い製品とする |
IoT、ビッグデータ、AI等の新たな技術を用いて、販売後の製品の使用状況に関するデータを取得することで、 ・製品の最適な使用方法の提案 ・機器の故障可能性を予測した適切な部品交換時期の提案 ・その他のサービス提供 |
(2)海外の顧客に対応できる営業・販売体制の構築 | 展示会における商機を着実に商談につなげ成約する | 英語その他の外国語を用いたウェブサイトの開設、英語その他の外国語を用いた電話受付の体制の整備、海外への配送体制の構築等を行う | ||
(3)他の事業者と連携した製造体制の構築による受注機会の増大 | 受注機会の増大・機器、設備等の繁閑差の平準化により、当該機器、設備等の稼働率の向上 | 高度な加工を行うことができる設備、試験設備等の複数の事業者による共同での導入、設計、開発、製造等の各種の工程に係る情報の事業者間での共有その他の他の事業者と連携した製造体制を構築し、自社だけでは対応できない顧客の要望に対応 | ||
ホ 設備投資並びにロボット及びITの導入等に関する事項 |
(1)設備投資 | 製造工程の自動化、加工精度の向上、リードタイムの短縮、多能工化及び多台持ちの推進並びに部品及び原材料の共通化等 | 高度な加工等を行うことができる設備や3次元データによる設計、図面の作成及び製造を可能とするソフトウェアその他のデジタル設計ツールへの投資 | |
(2)ロボットの導入または増設 | 労働投入量の低減、または製品及びサービスの量・質の向上 | 人が行う業務の代替・支援、または既存設備を代替する等のためのロボットを導し、または増設する | ||
(3)ITの導入等 | 業務全体に係る費用の低減。または製品及びこれに付随したサービスの付加価値向上 | 受発注、販売、製造、顧客、勤怠または会計に係る業務の標準化。製造、営業または販売に係る暗黙知の形式知化を目的としたソフトウェアの導入、機器若しくは当該機器に附属するセンサーから得られるデータの活用又は当該データを活用するための人材の育成のための投資を行う。 | 不正なアクセス等による情報漏洩対策等を講じる | |
(4)設備投資等が製品の品質及び製品1単位当たりの製造費用に大きな影響を及ぼす分野に関する留意事項 | 最新の技術、競合企業の設備導入状況等を踏まえつつ、積極的に行う | |||
ヘ 省エネルギーの推進に関する事項 |
コスト削減及び生産性向上の観点からエネルギー効率を高める | エネルギー使用量の把握、設備の稼働時間の調整及び最適な管理の実施、省エネルギー設備の導入、エネルギー管理体制の構築等を省エネルギー診断の活用等 |
企業規模については、下表をご参照ください。
規模 | 経営力向上の内容に関する具体的事項 |
小規模(常時使用する従業員の数が20人未満) |
イ(1)からニ(3)までに掲げる事項のうち1項目以上 注) 右記に加え、ホ(1)からヘまでに掲げる事項のうち1項目以上にも取り組むことを推奨する。 |
中規模(常時使用する従業員の数が20人以上300人未満) |
イ(1)からニ(3)までに掲げる事項のうち2項目以上 ホ(1)からヘまでに掲げる事項のうち1項目以上 合計3項目以上 |
中堅(常時使用する従業員の数が300人以上2000人以下) |
イ(1)からニ(3)までに掲げる事項のうち3項目以上 ホ(1)からヘまでに掲げる事項のうち2項目以上 合計5項目以上 |